『天然』キャラ
天然キャラ「イタい人」
授業の間の10分休み。この時間でなにが怖いかって、それはボッチになることだ。絶対周りの男子に何か思われるし、何より惨めだから。
「伊香ちゃん!」
だから、私は誰よりも早く人に話しかけることにしてる。話しかける対象が他の人にとられる前に……。
なんて計算高くて馬鹿みたいな行動なんだろうって、実際にそれをしている私でも思う。でも、中学なんてそんなものだ。みんな一人になるのが怖い。いつだってビクビクしてる。
別に、伊香ちゃんとは毎回話す訳じゃない。うちのクラスは、女子みんな大抵仲良くなってるから、普通より仲いい子は一応数人いても、いつもちがう子と過ごすことが多い。
だから私立ってサイコーだと思う。中学受験神! あ、いい忘れてたけど、ここ、私立なのよ。
「あ、優花ちゃん」
伊香ちゃんは、教科書から顔を上げて、笑みを浮かべた。
伊香ちゃんは、小学校の時カーストがあったらしい。別に彼女は一軍にも二軍にもなれるという素晴らしくいいポジション(私はそう思ってる)だったらしいけれど、彼女としては一軍女子は大嫌いだったらしい。
この休み時間を乗り切るためには、ずっと黙っているわけにはいかない。私は頭をフル回転させて、話題を出そうと試みた。
ふと、私の目に伊香ちゃんのシャーペンがとまる。
「え、そんなシャーペン持ってたっけ? 可愛すぎ! やば!」
「え、そうかなー? ありがと~。でもさぁ、優花ちゃんの持ってるやつって、センスよすぎでしょ。ホント」
通常運転。本当にそう思っているのかはわからないけど、まぁ、誉め合うのって中学校の友情構築には大切な要素。
「いやいやっ。そんなことないから~」
もちろん、謙遜って大事。男子に接するときは少し調子にのったほうが関わりやすいけど、流石に女子相手でナルシはあり得ない。
と、その時。
「きゃぁーー!」
誰かの叫び声が廊下から聞こえた。
「「……またかぁ」」
でも、その叫び声を聞いて浮かんでくるのは、呆れの気持ちだった。何故って、こんな大声を上げる人なんか『あの人』くらいしかいないし、今の叫び声は完全にふざけた声だったから。
『あの人』とは、違うクラスの超パリピ女子(多分。関わりがないので想像だけれど)、神田りいなのことだった。りいなは、休み時間のたびにうちのクラスにやってくる。しかも…、相手はうちのクラスの男子だ。うちのクラスの女子は見向きもせず、いつも入り口付近で男子に「ねーえー!」と話しかけ、ピーピー騒ぐ。
いつも二人くらい連れの女子がいて、いつもお祭り騒ぎだ。
…まぁ、明らかに「あなた、パリピだよね? 一軍女子代表だよね?」といいたくなるような人だ。
「んねぇねえ! 今のみた?」
とそこへ、伊香ちゃんの『普通より仲いい子』である友海ちゃんがやってきた。
その顔に浮かんでいるのは、多少の嫌悪感だった。
少し場所を移動し、彼女の立つ位置を用意する。
「今のって?」
私がとぼけて聞くと、伊香ちゃんが、友海ちゃんにそっくりの嫌悪感が浮かんだ顔で、答えた。
「りいな。あれ、マジでやめてほしい」
「え、あれって?」
周りをそんなに見ていなかった私が首をかしげると、友海ちゃんは廊下を指差した。
「だって、あれだよ。座るときにさぁ、『ちゃくりーっく!』ってやったんだよ」
…えーと、それって、りいなとかその連れが、『ちゃくりーっく!』っていいながら座ったってこと?
「え、何それ、天然じゃん!」
え、まって、りいな超天然なキャラじゃん。可愛くない? フツーに。
私がいくらか高い声でそう反応すると、二人は少し目を見開いた。そして、二人同時につぶやいたのだ。
「「素直だねぇ」」
「え、そ、そう?」
そんなに異常な反応を示してしまったのかと、私は内心ビビった。だから、全力でフォローにかかる。
「い、いや、天然な『キャラ』だなって……」
「ていうかさ、りいな達って、あれ絶対狙ってやってるよ」
友海ちゃんが口を尖らせた。
「そうそう。絶対あれさぁ、男子に『天然』って思わせて、モテるためにやってんでしょ。わざとらしっ」
伊香ちゃんがそれに加勢し、ムッとしたようにつぶやく。
「だから優花ちゃん、騙されちゃダメよ。ああいう人、日本語で『イタい人』って言うんだからね?」
友海ちゃんが私を諭すように言った。
「日本語で」なんて、国語の教師みたい。
伊香ちゃんも、「日本語で、って……」と、笑った。
「ホントだからね? ああいう人、日本語で『イタい人』っていうんだよ!」
友海ちゃんがハッキリとした口調で言いきった。
「あ、そ、そうなんだ」
同意しながらも、私は思う。
イタい人、か。イタい人って、嫌われるのだろうか、と。
りいなが『天然』キャラぶってやっている「ちゃくりーっく!」だけど、それは女子の反感を買うものだって、りいなにはわからなないのだろうかーー、と。
「伊香ちゃん!」
だから、私は誰よりも早く人に話しかけることにしてる。話しかける対象が他の人にとられる前に……。
なんて計算高くて馬鹿みたいな行動なんだろうって、実際にそれをしている私でも思う。でも、中学なんてそんなものだ。みんな一人になるのが怖い。いつだってビクビクしてる。
別に、伊香ちゃんとは毎回話す訳じゃない。うちのクラスは、女子みんな大抵仲良くなってるから、普通より仲いい子は一応数人いても、いつもちがう子と過ごすことが多い。
だから私立ってサイコーだと思う。中学受験神! あ、いい忘れてたけど、ここ、私立なのよ。
「あ、優花ちゃん」
伊香ちゃんは、教科書から顔を上げて、笑みを浮かべた。
伊香ちゃんは、小学校の時カーストがあったらしい。別に彼女は一軍にも二軍にもなれるという素晴らしくいいポジション(私はそう思ってる)だったらしいけれど、彼女としては一軍女子は大嫌いだったらしい。
この休み時間を乗り切るためには、ずっと黙っているわけにはいかない。私は頭をフル回転させて、話題を出そうと試みた。
ふと、私の目に伊香ちゃんのシャーペンがとまる。
「え、そんなシャーペン持ってたっけ? 可愛すぎ! やば!」
「え、そうかなー? ありがと~。でもさぁ、優花ちゃんの持ってるやつって、センスよすぎでしょ。ホント」
通常運転。本当にそう思っているのかはわからないけど、まぁ、誉め合うのって中学校の友情構築には大切な要素。
「いやいやっ。そんなことないから~」
もちろん、謙遜って大事。男子に接するときは少し調子にのったほうが関わりやすいけど、流石に女子相手でナルシはあり得ない。
と、その時。
「きゃぁーー!」
誰かの叫び声が廊下から聞こえた。
「「……またかぁ」」
でも、その叫び声を聞いて浮かんでくるのは、呆れの気持ちだった。何故って、こんな大声を上げる人なんか『あの人』くらいしかいないし、今の叫び声は完全にふざけた声だったから。
『あの人』とは、違うクラスの超パリピ女子(多分。関わりがないので想像だけれど)、神田りいなのことだった。りいなは、休み時間のたびにうちのクラスにやってくる。しかも…、相手はうちのクラスの男子だ。うちのクラスの女子は見向きもせず、いつも入り口付近で男子に「ねーえー!」と話しかけ、ピーピー騒ぐ。
いつも二人くらい連れの女子がいて、いつもお祭り騒ぎだ。
…まぁ、明らかに「あなた、パリピだよね? 一軍女子代表だよね?」といいたくなるような人だ。
「んねぇねえ! 今のみた?」
とそこへ、伊香ちゃんの『普通より仲いい子』である友海ちゃんがやってきた。
その顔に浮かんでいるのは、多少の嫌悪感だった。
少し場所を移動し、彼女の立つ位置を用意する。
「今のって?」
私がとぼけて聞くと、伊香ちゃんが、友海ちゃんにそっくりの嫌悪感が浮かんだ顔で、答えた。
「りいな。あれ、マジでやめてほしい」
「え、あれって?」
周りをそんなに見ていなかった私が首をかしげると、友海ちゃんは廊下を指差した。
「だって、あれだよ。座るときにさぁ、『ちゃくりーっく!』ってやったんだよ」
…えーと、それって、りいなとかその連れが、『ちゃくりーっく!』っていいながら座ったってこと?
「え、何それ、天然じゃん!」
え、まって、りいな超天然なキャラじゃん。可愛くない? フツーに。
私がいくらか高い声でそう反応すると、二人は少し目を見開いた。そして、二人同時につぶやいたのだ。
「「素直だねぇ」」
「え、そ、そう?」
そんなに異常な反応を示してしまったのかと、私は内心ビビった。だから、全力でフォローにかかる。
「い、いや、天然な『キャラ』だなって……」
「ていうかさ、りいな達って、あれ絶対狙ってやってるよ」
友海ちゃんが口を尖らせた。
「そうそう。絶対あれさぁ、男子に『天然』って思わせて、モテるためにやってんでしょ。わざとらしっ」
伊香ちゃんがそれに加勢し、ムッとしたようにつぶやく。
「だから優花ちゃん、騙されちゃダメよ。ああいう人、日本語で『イタい人』って言うんだからね?」
友海ちゃんが私を諭すように言った。
「日本語で」なんて、国語の教師みたい。
伊香ちゃんも、「日本語で、って……」と、笑った。
「ホントだからね? ああいう人、日本語で『イタい人』っていうんだよ!」
友海ちゃんがハッキリとした口調で言いきった。
「あ、そ、そうなんだ」
同意しながらも、私は思う。
イタい人、か。イタい人って、嫌われるのだろうか、と。
りいなが『天然』キャラぶってやっている「ちゃくりーっく!」だけど、それは女子の反感を買うものだって、りいなにはわからなないのだろうかーー、と。