捨てられ妻の私がエリート御曹司に甘く娶られるまで
「奏士さんのお嫁さんになるなら、三栖グループに入るわけだから、気を引き締めなきゃなあ」
「付き合い始めたばかりで気が早いかもしれないけど、俺はいつ結婚してもいい。というより、早くしたい」

耳元でささやかれ、どくんと心臓が跳ねる。愛を交わし合って以来、奏士さんはスキンシップも愛情表現も遠慮がない。

「里花と毎晩一緒に寝たいしな」

こんなふうに甘い声で誘われては、あっという間に落とされてしまう。私は気合いを入れ、ぐっと奏士さんを押し返した。

「それはまだ、もう少し待って。……私の離婚が成立して一年も経っていないんだもの」

民法上、女性の再婚禁止期間は百日で、それはとっくに過ぎているけれど、やはり世間的な目がある。
ただでさえ、三栖本社は郷地物産との取引を全面停止した。それが宮成家の令嬢を奪い合ってのものだったなどと、奏士さんにとって不名誉な噂を流されたくない。

「俺は気にしないけど、里花が気にするなら無理強いできない。赤ちゃんもな」
「……うん」

正直今は赤ちゃんのことも考えられない。京太の結婚生活で、後継者を残すことを求められ続けたことが、心に引っかかっているようで、どうしても自分が母親になる姿にポジティブな気持ちが持てないのだ。
私のそんな葛藤を、奏士さんはなんとなく見抜いているようだ。
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