最強総長は闇姫の首筋に牙を立てる~紅い月の真実~
「闇姫。あり、がと……」

「大した事はしてないわ。
だからお礼なんていらない」


少年はさっきよりも自分の身体が楽になったのを感じていた。


「悔しい……、負けたことが」


闇姫に、女に助けられたことに対して泣いているのではない。ただ、男を目の前にして何もできず非力な自分を悔やんでいるのだ。


吸血鬼と人間の力の差は圧倒的だ。それは言うまでもないだろう。だが、それを言い訳にするのは自分が弱いと認めているのと同じだ。


何故なら、闇姫はただの人間でありながら男に屈することなく最後まで戦ったのだから。


「僕は…強くなりたい。いつか最強と呼ばれるまでになって、さっきの奴らも闇姫のお前だって見返してやる」

「……そう、楽しみにしてるわ。
またね、壱流(いちる)


「なんで僕の名前を……」


少年は安心したのか、その場で倒れこむように意識を失った。その言葉を最後に少年は闇姫に会うことはなかった。


少女は闇のように現れ、闇のように消える。


だから〝 闇姫 〟いつか誰かがつけた名前。


最初に闇姫に負けた男がつけたあだ名だとか、自分で名乗っていたとか、そうではないとか、本当の真実はそれもまた闇の中。


そんな闇姫はある日唐突に姿を消した。


それから、数年が経った今でも闇姫が残した数々の伝説だけが残り、依然として闇姫の行方を知る者は誰一人としていなかった。
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