私の王子様は会社の社長 ~突然私は婚約者になってしまった~

今日、男性が挨拶のために訪問するとは伝えたが、相手が如月社長とは伝えていない。
挨拶前から驚かせるのは嫌だったからだ。

徹さんは父と母が座る真正面に座り、姿勢を整えると挨拶を始めた。

「突然に申し訳ございません。私は如月徹と申します。陽菜さんと結婚前提でお付き合いさせてください。婚約のお願いで参りました。」

父も母も、あまりにも突然のことで驚いている。

父は徹さんに仕事を尋ねた。

「如月君、君はどのようなお仕事をされているのですか?なぜ陽菜と知り合ったのかな?」

「僕はキサラギ物産で代表を務めております。陽菜さんは私の会社に入社してくれた新入社員です。」

父はその言葉を聞いて、のけ反るように驚いている。
まさか自分の娘が就職した会社の社長が挨拶に来るとは思いもよらないだろう。
しかも『キサラギ物産』といえば大企業の社長ということだ。

徹さんはさらに説明を続けた。
「陽菜さんが入社されたのは、まだ少し前の事ですが、私は陽菜さんが高校生の時に初めてお会いしたのです。車にぶつかりそうになり、足を捻挫された時です。その後に陽菜さんの高校の担任教師が同級生でもあり、陽菜さんがキサラギ物産を目指していると聞きました。それ以来頑張っている陽菜さんを、遠くから見ておりました。」

父は少し考えて、時間をおいて静かに話し始めた。

「如月くん。君を信じます。どうか陽菜を公私ともに支えてくれないかな。」


私は父の言葉に、心がチクンと痛む。
この婚約も本当は一年間という偽りの婚約なのだからだ。


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