復讐日記
変質者
 帰宅途中、気になる場面に出くわした。
 この道は初めて通る。今日はここを歩かなければならない、と何故か気が急いた。
 短い隧道上を越える遊歩道を自宅方面へ向かって歩いていて丁度頂上に到達したところで、女子高生とすれ違った。その女子高生を追うように黒っぽいスポーツタイプの自転車に乗った若い男性、大学生くらい?が同じ方向から現れた。灌木の脇に自転車を停め、歩いて女子高生に追い付くと話しかけている。
 女子高生は右手で進行方向とは逆を指し、どうやら道を説明しているよう。
 歩きながらちょいちょい振り返ってその様子を伺っていたのだけど、なんか胸騒ぎ。
 道を訊くだけなら自転車を離れたところに停める必要ある? 自転車を引いたまま訊くのが普通ぢゃない? 両手を自由にしておかなければならない理由があるのかとか、自転車から足がつくのを避けるためかとか勘ぐってしまう。
 その男性、ご本人さんはイイ男ぶってる感じ。ちょっと目つきが鋭かったかな。私は気持ち悪いと思ったけど。身長170㎝位で色白細身、服装は白いTシャツにデニムだったかなー。白いタオルを持っていた。あれ? マスクしてなかったな。てことはタオルだと思ったのはマスク?
 女子高生は白いブラウスの上にベージュのニットベストを着ていて、スカートは短め。あごのラインの長さのおかっぱ。
 私の後ろから50代の男性が歩いて来ていて、でもその男性は若い2人のほうには目を向けてなかったから目撃者は多分私1人。
 明るくても人通りが少なくて物騒な感じがする道を通学路とするのは危険。だけど普段何も無いと思うと通っちゃうよね。
 女子高生が恐い思いをしていなければ良いのだけど。
 帰宅してすぐ110番通報。自宅までお巡りさんが来てくれた。細々と説明して高校への通達やパトロール強化をお願いした。

 さて、表向きの市民の義務を果たしたぞ。
 ここからは本業。
 目を閉じ精神を集中してその遊歩道を思い浮かべる。若い2人のイメージが瞼の裏に現れた。
 男性は一礼して女子高生から離れた。自転車に向かって歩き、自転車を来た方向に向けると引いて歩き始めた。辺りをキョロキョロと見回し、道を戻ろうとしている。
 その男性の脳内のイメージの中へ飛び込むことにする。
 すると同じ道の景色が現れた。そこには別の女子高生が居て、坂道を下りて来ている。男性は灌木の脇に停めた自転車から離れ、女子高生に向かって歩いた。女子高生は目の前に現れた男性に驚き、「きゃっ」と声を上げた。すると男性は女子高生に抱き付いた。右手で制服のスカートの中に手を入れている。もがく女子高生。どんどん奥に手を入れる男性。左手でしか女子高生を押さえていられないせいか、女子高生が男性を突き飛ばすとすぐに離れた。大きな声で「助けて~!」と叫びながら走り出す女子高生。男性は後を追わない。
 男性の脳内イメージを一旦解放した。
 男性は自転車を引きながら元来た方向へ歩いている。そこから先は上り坂なので、自転車に乗らないほうが楽だからか。
 目を開け深呼吸。PCでその辺りの変質者情報を検索した。
 出て来た。女子高生を襲う変質者。人相が近い。こいつは常習犯なのか。不届きな野郎だ。お仕置きだな。
 もう一度目を閉じ、現在の男性の所在を追う。自転車を引きながら坂道を上り続けている。この辺は平坦な道のほうが少ない。
 まず自転車のタイヤをパンクさせた。男性は怒りを露わにし、パンクした自転車の後輪を蹴っ飛ばした。もう自転車には乗れない。そのまま引いて家まで帰るしかない。緩くカーブする道の向こうから軽トラックが走って来た。これに轢かれて死んでもらうか。いいや、軽トラックの運転手を殺人犯にするわけにはいかない。
 軽トラックが通り過ぎたところで精神を集中し、男性が宙に浮くイメージを描く。浮いた。驚いている。そりゃそうだよね。周りに誰も居ないし。そのまま男性の体を坂道から外れた崖のようになっているところへ持って行く。ばたついている。動くな動くな。もうちょっと高く持ち上げるか。10mくらい? はい、解放。
 ドサっと音がした。
 すると先程の軽トラックが戻って来た。どうやら高く持ち上げたところがバックミラーで見えてしまったらしい。119番してる。
 しばらくすると救急車が来た。野次馬も集まった。救急隊員の通報からパトカーも来た。軽トラックが轢いたと判断したらしい。でも、車体にも死体にも衝突の跡等は無い。坂道を転がり落ちた形跡も無い。運転手は必死に「宙に浮いた」と説明している。
 死んだ、と言うか私が殺した男性の記事が翌朝のネットニュースに出、変質者であるとのツイートと共に拡散された。不謹慎ではあるが、死んでくれて良かったというコメントが多かった。
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