奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~
「そんなこと言わないで。りっくんを凄く可愛がってくださるのに」
「あのふたりが、ここまで孫にべったりになるとはな」
経済界では上品な夫婦で通っているふたりも、孫の前ではデレデレのじじばばだ。
「さ、りっくん。ご馳走様かな?」
まだ律に乳首を含ませていた梨音が、豊かな乳房を隠す。
「もう少し見ていたかったな」
「なに?」
「いや、母と子を題材にした絵画にそっくりだなと思って」
梨音がげっぷをさせようとしたら、奏が律を軽々と受け取り背中をポンポンと叩く。
「パパは相変わらずお上手ですね~」
柔らかく笑っている梨音の腕にそっと、律を渡す。
「梨音、愛してる」
奏は笑顔の梨音の頬にキスをすると、息をするように自然に愛をささやいた。
「私もよ。きっと律も」
「ああ」
奏は、梨音と律を大きく広げた腕に抱き込んだ。
パソコン画面から、梨音の作曲したピアノソナタが流れ始めた。
優しい主題の後に激しい展開部が続く。そして穏やかな旋律に変わって華やかなコーダで締めくくられた。
「梨音、この幸せをもらえたことを感謝している」
「奏さん」
「これからも、ずっと君を大切にするよ」
ふたりが出会ってからこれまでがひとつの作品かもしれない。いや、まだこれからも新しい章が続いていくのだ。
次々に流れる音楽を聴きながら、奏はもう一度母子をそっと抱きしめた。


