奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


「酷い……」

梨音はその小切手を京太の手から奪うと、くしゃくしゃに丸めて寝室の奥に放り投げた。

「あ~あ、知らないよ。僕はちゃんと渡したからね」

京太は梨音の行動に呆れたのか、バイバイというように手を振りながら部屋から出て行った。
バタンとマンションのドアが閉まる音が聞こえたが、梨音は動けないままだった。



***



奏と京太がそれぞれ部屋を出て行ってから、どれくらいの時間が経っただろうか。

ポツンとひとり残されていた梨音も、ようやく立ち上がってベージュのコートを手にとった。
さっき買い物に行った時と同じ小さなポシェットだけを持つとゆっくり歩き出す。

『二度と、顔を見せるな!』

奏の冷たい怒りの声だけが耳に響いている。
ふたりだけの世界だったこのマンションには、二度と戻らない覚悟で梨音は外に踏み出した。

ビル街を吹き抜ける風は凍えるような冷たさだったが、梨音はただ歩き続けた。







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