奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


成田から直接会社に行くと、秘書の守屋から京太が会社を辞めたと聞かされた。

「ご存知ありませんでしたか?」

「ああ。京太のことは気にもしていなかった」
「そうですか」

守屋は奏の言葉に含みを感じたようだったが、それ以上は京太の話題に触れずに仕事の話に戻った。

奏の脳裏には梨音と京太の姿が蘇ってくる。

(思い出したくもないが、京太は梨音をどうするつもりなんだ)

梨音名義にしている預金の残高をチェックしてみた。
カードを持たせていたのに、二月以降に梨音が現金を引き出した形跡はなかった。

(ふたりで暮らすのなら、京太の収入ではやっていけないだろうに)

梨音の音楽環境を考えれば、金銭面で京太の力では支えきれるとは思えない。
複雑な思いを抱えたまま、奏は久しぶりにマンションに戻った。
梨音に『顔を見せるな』と言った以上、誰もいないはずの部屋に入るのは気が重かった。



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