白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
ウィルバーと義姉オリヴィアと東の塔の調剤薬

+ 1 +




「――戻ってきたわけじゃない。ダドリーの転移魔法で戻されただけだよ」

 三人にまじまじと見つめられたウィルバーは、自分がまた玉座の間に戻っていることに気づき、慌てて跪く。

「国王陛下、宰相ならびに皇太孫さま……いま、転移の魔法で召喚されましたね?」

 怪盗アプリコット・ムーンが撤退する際に使っていた転移の魔法。あれもまた古民族の濃い血を持つ人間だけが扱える、“稀なる石”が必要となる魔法だ。まさか自分が召喚される側になると思っていなかったウィルバーは国王が何か言い残したからジェイニーに喚ばれたのだろうと検討をつけ、アイカラスへ顔を向ける。
 だが、アイカラスは違う違うと首を振り、孫のダドリーを指さしている。王城のちいさな魔術師は困惑した表情でウィルバーを見つめている。

「皇太孫、ダドリーさま? さきほどの魔法を……」
「僕はお姉ちゃんのことを思ってこの“稀なる石”に念じたんだ……だけど怪盗さんは現れなかった」
「そりゃそうさ。こいつが魔法封じの枷で召喚を妨害したんだから……仕方なしに彼女といちばん繋がりのある団長が魔法に選ばれたわけ」
「魔法に選ばれる……?」
< 158 / 315 >

この作品をシェア

pagetop