白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 ウィルバーへの追求を諦めたオリヴィアは、丸薬と一緒に放置されていた小瓶を見て、つまらなそうに口にする。

「依頼された避妊薬よ。いまはまだ妊娠するわけにはいかないってあの子が……あの子って誰だったかしら……? 一族の使命があるからって……」

 ぼそぼそと紡がれるオリヴィアの言葉に、ウィルバーは首を傾げる。オリヴィアに依頼していることを考えると相手の身分も同等かそれ以上の人間なのだろう、そして彼女が口にした「一族の使命」……王都で暮らしているオリヴィアと同郷の人間だろうか。

「そう、ですか」
「ごめんなさいね、なんだか余計なことまで喋ってしまって……最近物忘れが激しいみたい、夫が即位するからかしら、ふふっ」
「いえ。お忙しいところすみません。こちらこそお薬をありがとうございます」
「真相が明らかになるのを期待しているわ、スワンレイクの英雄さん」

 怪盗アプリコット・ムーンを捕まえたことで名を轟かせた憲兵団長ウィルバー・スワンレイクの名は、英雄などと騒がれている。王家のはみ出しもの、灰色の白鳥などと蔑まれていた頃を思うと、ずいぶん出世したものだなと思う。
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