白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

「それよりぼくは君が夢中になっている噂の女怪盗の顔を確認したいのだよ」
「確認?」

 彼も初代国王マーマデュークに一方的に縁談を決められ、アルヴスからともに渡ってきた故国の令嬢を妻を迎えていたが、五年前に死別している。アイカラスからは再婚をすすめられたものの、彼は亡き妻を愛しているからと嘯いて、いまも独身王族を貫いている。王位継承権第二位に属するゴドウィンならば、寄ってくる女性もたくさんいるだろうに、彼は本気になることなく、スマートに彼女たちを捌いていた。女性の扱いが上手なのは事実のようで、独り身になってからはあちこちで女性との浮き名を炎上しない程度に流している。

 ――もしかして、異母弟が骨抜きにされている怪盗アプリコット・ムーンがかつて自分が遊んだ女なのかもしれないと気になったのか?

 ウィルバーは心の声を圧し殺して、他人行儀に異母兄を睨みつける。敵愾心むき出しの異母弟を見ても、ゴドウィンは平然と紅茶を飲んでいる。
 渋々、ウィルバーは言葉を返す。

「……彼女はまだ、身元が判明しておりません。もし、存じているご令嬢だというのでしたら、教えていただきたく存じます」
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