白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 憲兵たちは希少価値の高い稀なる石、要するに宝玉や武器などに加工されたものの真実の価値などちっとも理解していないだろう。
 けれども新大陸に移民たちが渡ってくる前からこの地(ラーウス)に棲まうアプリコット・ムーンは知っている。この“稀なる石”を集めることで、大切なひとを救えることを。

 本日のターゲットは美術展の目玉とされている白銀のティアラ、“ヴィオレットユーニ”。旧大陸のとある公国の言葉で“六月の紫”を意味するのだという。高貴な紫の名がついている通り、ティアラには紫色がかったラーウスの稀なる石が使われていた。それも、中央の目立つ位置に。

 ――旧大陸(アルヴス)の人間が勝手に持ち出して加工したのね、悔しいけれどきれい……

 魔法という概念が消えかけているこの世界において、“稀なる石”はその名前のとおり魔法をつかうための媒介になる魔力を秘めた稀少な石だ。魔法をつかわない人間からすればただの磨けば光る美しい石でしかないが、魔術を扱う人間たちにとってこの石はそれ以上の価値がある。
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