白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
それに、ローザベルはあのとき花瓶を割った風の精霊に感謝しなくてはいけないだろう。ウィルバーとゴドウィンの興味深い会話をはじめから聞けなかったのは残念だが、古代魔術研究の第一人者である第二皇太子が、ノーザンクロスの名をウィルバーに唆してくれたことで、自分は彼とふたたびひとつになることが叶って、“星詠み”のちからを取り戻すことができたのだから。
「でも、“稀なる石”は、二度もわたしの大きな魔法に応えてくれるかしら……」
はぁ、とため息をつくローザベルの背後で、カチャリという鍵の動く音と同時に扉がひらく。
「――起きていたのか」
驚いた表情のウィルバーを見て、ローザベルは苦笑を浮かべる。ずいぶん時間が経過したように思っていたが、もしかしたら意識を飛ばしていたのはほんの数刻だったのかもしれない。
「起きていたら、いけなかったですか?」
「いや……身体は大丈夫か」
あれだけ啼かせておきながら、ウィルバーは心配そうにローザベルの瞳をのぞきこむ。ローザベルの記憶がないくせに、あのときと同じ、彼の態度。そして仕草。
「痛いです」
「だよな……悪ぃ」