白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

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「怪盗アプリコット・ムーンになって、“稀なる石”を、盗め……ですって?」
「正確に言えば、“烏羽(からすば)の懐中時計”を盗んできてほしい。文字盤に“稀なる石”が鏤められていて、魔法具としてだけでなく美術品としても価値が高いものだ」
「“烏羽の懐中時計”って、烏の一族が持っているあれよね?」

 “星詠み”のノーザンクロスの分家筋である烏座のコルブスも、かつては時を操る魔術師を排出していたため、その名残として“烏羽の懐中時計”と呼ばれる家宝がある。部品に細かい“稀なる石”をつかっているが、その石に魔力が残っているかはわからない。

「それが、“烏羽の懐中時計”をいま持っているのは烏の一族じゃないんだ。いま、この国にタイタス・スケイルが潜入していてな」
「? それって、どういう……?」

 ローザベルの鋭い声に驚くこともなく、ジェイニーは苦笑を浮かべるだけ。

「国外逃亡中だった彼が、烏の一族を言いくるめて長老から奪い取ったらしい。マイケルが彼に従っているのも、“烏羽の懐中時計”を取られているからと考えられる」
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