白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
王城の魔術師たちとウィルバーと眠れる森のローザベル

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「エセル王妃が現れた……かぁ」

 ジェイニー・ジェミナイは深い眠りから覚めた国王アイカラスの話を聞いて、感慨深そうに頷いている。
 王妃エセルはアルヴス出身だったが、ラーウスに渡って以来、精霊たちの声を聞き、魔法をつかえるようになった才能ある婦人である。系譜を辿ると、アルヴスの最後の魔法使いの末裔だというから、もともとの素質もあったのだろう。
 ラーウスで“稀なる石”の魔法をつかえるようになったということは、それだけ国王アイカラスへの“愛”が強かった、とも言えよう。
 今回の騒動を空の上からでも見ていたのか、夢のなかで国王に助言を与えてくれたらしい。
 こればっかりは国王陛下へ“信愛”を捧げているジェイニーでも敵わない。生前、彼女に言われたことを思い出す。
 
 
 ――ジェイニーちゃん。国王陛下を最も愛しているのは、このわたくしですよ。
 
 
 愛するとは不思議な感情だ。たったひとりに“愛”を捧げればつかえる魔法が通用するこの世界に生きる魔術師たちは、今日もたったひとりの誰かのために“愛”を捧ぐ。生きている間はもちろん、場合によっては死んでしまってからも……
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