白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
* 前日譚 *

ローザベルとウィルバーと内緒の怪盗アプリコット・ムーン




 赤みがかった黄色い月を背に、黒ずくめの装束をまとった女性が舞い降りた。
 彼女はスワンレイク王国国立博物館に展示されていた古語の刻まれたプレート、“エト・キュイーヴル”を片手に、音もなく現れる。

 それからほどなくして、博物館の白壁に映し出されたスレンダーなシルエットを見た憲兵たちが、こぞって騒ぎ出した。


「――怪盗アプリコット・ムーンだ!」
「博物館の遺物を持ち出しているぞ! 追え、逃がすな!」


 あれは、古代魔術の媒介となる“(まれ)なる石”ばかりを盗む女狐、怪盗アプリコット・ムーン。
 彼女は手のひら大のおおきさの赤銅色のプレートを大切そうに胸に抱え込んでいた。

「おあいにくさま! スワンレイク王国博物館所蔵の“エト・キュイーヴル”は、この怪盗アプリコット・ムーが頂戴いたしましたわ!」

 凛とした声と同時に降り注ぐ魔法のひかり。
 憲兵団長ウィルバー・スワンレイクは黒ヴェールの婿に隠れた女怪盗の表情を読み取るべく、キッと睨みつけていたが、鼻で笑われてしまう。
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