この夏、やり残した10のこと


雫を右手の人差し指、近江くんを左手の人差し指でさした薫は、得意げに口角を上げた。人を巻き込むには、多少の強引さが必要不可欠なようである。


「あ、霧島!」


薫が目の前で急に大きな声を上げたので、どきりとして肩が跳ねた。彼女の視線は私の後方に固定されているけれど、振り返れそうにない。途端に背中が熱くなってきて、緊張に俯く。


「おー、足立(あだち)。なに?」


快活で男の子らしくて、けれども低すぎない声。私がずっと、密かに憧れている人の声。
実は、霧島くんとは高校から知り合ったわけではない。中学が同じだったのだけれど、三年生の時しかクラスが一緒にならなかったし、私はほとんど学校に行っていなかった。だからきっと、霧島くんは私のことをあまり知らないと思う。

でも、別にそれでいい。仮にずっとクラスが一緒だったとしても、毎日顔を合わせていたとしても、私は彼に朝の挨拶すら上手く言えないだろうから。


「サッカー部って今日休みでしょ? 放課後ヒマ?」

「え? まー、うん、暇だけど。何で?」


まさか、霧島くんまで誘うつもりなのだろうか。それはさすがに恐れ多すぎる。


「薫……! いいよ、そんなわざわざ……」

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