鬼は妻を狂おしく愛す
花柄のメモと飴から始まる鬼との恋
二人の出逢いは、去年の夏。

雅空は、鬼頭組・若頭だ。
鬼頭組といえば残忍でイカれた組だと言われていて、その中でも雅空は一番冷酷な人間だ。

容姿は美形ながら、いつも威圧感があり組員でさえも怖がって意見できない者もいるくらいだ。
美来に出逢うまで、信じられるの自分だけ。
裏切り者、自分に迷惑をかける者、無能な者は問答無用で消してきた。

“鬼頭組に情は必要なし”
と組長に教えられて生きてきた。


そんな雅空がなぜ美来にこれ程まで惚れたのか………
なぜこれ程まで狂おしく愛するのか、誰にもわからない。


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雅空が初めて美来を見かけたのは、仕事の移動中の車の中からだ。
その日はたまたま道が渋滞をしていて、先に進まず立ち往生していた。
「若、申し訳ありません。
ここからでは、迂回もできなくて……」
部下の犬飼(いぬかい)が、申し訳なさそうにバックミラー越しに声をかけた。
「犬飼」
「はい!」
「そのくらい想定しておけ!いつも言ってるだろ?
……………無能はいらない」
「も、申し訳ありません!」
雅空は何気なく窓の外を見た。

公園のベンチに目がいった。
そこに座って本を読んでいた女性・美来に釘付けになったのだ。
「綺麗だ……」
「は?なんですか?若」
「いや…」
その日は、それだけだった。

次の日からほぼ毎日その公園の前を通る度に、ベンチが目に入り美来に見惚れる。
その時だけは、なぜか穏やかで心の中に温かい火が灯ったようになるのだ。

そんな日が、一ヶ月続いた。
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