鬼は妻を狂おしく愛す
そして今度は声を聞いてみたいと思うようになる。

なのでそれからは、車から降り少し遠くのベンチに腰かけ美来を見るようになった。
でも、なかなか声が聞けない。
スマホを扱ってるのを何度も見るが、なぜか電話をかけているのを見たことがない。

声をかけようと何度も試みるが、自分のような穢れた人間を受け入れてくれないのではと不安があり、なかなか声をかけることさえもできない。

こんなに臆病な自分が情けない。
でも、嫌われたくないという思いがあり近づくことさえもできなくて、更に二週間が経った。

そんなある日━━━━━
その日は朝から曇りで、いつ雨が降ってもおかしくない天気だった。

案の定、いつものように美来を見ていると雨が降りだした。
すかさず、犬飼が雅空に傘をさしてくる。

ふと美来を見ると━━━━傘を持っていかなったようで、公園内の東屋に雨宿りしていた。
雅空は無意識に犬飼が持っていた傘を取り、美来の方に向かったのだ。

どう声をかけていいかわからず、無言で美来に傘を差し出した。
すると美来が雅空を見上げ、不思議そうに目をパチパチして見てきた。
「これ、使って」
ぶっきらぼうに言うと、美来はスマホを操作しだして画面を雅空に見せてきた。

【すみません。私は耳が聞こえません。
何かご用ですか?】
雅空を目を見開いて“あぁそうか”と思う。
だから、電話をしてるとこを見たことがないのかと妙に納得したのだ。
雅空もスマホを取りだし、
【傘使って!
俺は車があるからいらない】
と打って、美来に見せた。
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