鬼は妻を狂おしく愛す
今度は美来が目を見開いて、
【いえ、そんな悪いです。
職場が近いので、大丈夫です。
お心遣いありがとうございます】
とスマホ画面を見せてきた。

【この傘使ったら、捨ててくれて構わないから】
スマホ画面を見せて、美来の小さな手に傘の柄を握らせた。
そして去ろうとする。

すると、美来にギュッとジャケットを掴まれた。
美来はメモ用紙を取りだし、サッと何かを書いて三つの飴と一緒に渡してきた。

花柄のメモ用紙には、
【ありがとうございます!
では、使わせていただきますね。
でもちゃんとお返ししたいので、また後日ここで会えませんか?】
と書いてあった。

雅空はゆっくり頷き、
【じゃあ、また明日。
飴、ありがとう】
とスマホ画面を見せて、去ったのだった。


車内で、美来からもらった飴を口に入れた。
普段、飴なんて食べない。
甘いものは嫌いだ。
でもなぜか、とても美味しく身体中に染み込んでいくようだった。
あっという間に、三つとも食べてしまう。
そしてメモをジッと見つめ、 美来の書いた字をなぞった。
自然と笑みが出てくる。

「え?若…?」
「あ?」
「い、いえ…今微笑んだように見えたので……」
「俺、笑ってた?」
「はい…」
「………そうか…
俺、あの女に惚れたみたいだ……」

「え━━━━?
若が?恋ですか?」

「そうだな…
バカげてるな……」
「いえ…そうではなく、ちょっと嬉しいです!
できる限り、協力しますよ!」
犬飼は嬉しそうに話したのだった。
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