最低なのに恋をした
「知っているというほど、詳しくは聞いてませんが…まあ、はい」

言葉を選んで話すが、そこまでは知らない。

本人が自分のことを「最低だよ」と言っていたこと。
専務と関係があったであろう女性にお酒をかけられたこと。

わかっているのはこの2点だけ。

「今回のことを隠すのは難しいと思う。今はみんなスマホを持っていて写真も動画も撮り放題。もしかしたら、会社の前を通っただけの人が異変を感じでSNSに上げている事も考えられる。こうしてる今も広報にも問い合わせがはいっていてもおかしくない」

「はい」

室長のおっしゃる通り…佐田コーポレーション本社に刃物を持った男が押し入った。
スマートフォンが普及する前で、怪我人が出なければマスコミに報道しないでもらう事も可能だっただろう。

でも今は、スマホを持っているすべての人が瞬時に記者になる時代だ。

でも…

「押し入った理由を報道されるのは、会社的にマズイですよね」

室長は渋い顔をしている。

「そうなんだ。女性関係は非常にマズイ。マスコミには押し入った理由を報道しないように口止めする」

「はい」

「あともう一つ」

室長はじっと私な顔を見る。

「専務をよく思っていない役員達がここぞとばかりに引きずりおろそうとするだろうな」

室長の言葉にハッとした。女性関係でトラブル、しかも相手の男が刃物をもって押し入るほどだ。会社の信用を揺るがしかねない。

「私はどうしたらいいでしょう?」

私は自分でもビックリするほど冷静だった。「女を取られた」と聞いても専務を軽蔑していない。
私はただ、専務が専務でいるために。
専務の努力を守りたいという思いでいっぱいになった。

「安西さんはできるだけ専務に同行して。何か変わったことがあればすぐ私に連絡してほしい」

「承知しました」

室長は何を思っているのだろう。
その表情は無で、気持ちを読み取ることはできない。

「一つ、質問よろしいでしょうか」

気持ちが読み取れないからこそ、失礼を承知で聞いてみることにした。

「室長は、専務の味方ですか?」

室長の目をじっとみる。少しの揺らぎも見逃さないように。

室長は私の質問に一瞬目を見開きかけたが、すぐに感情を隠した。

「安西さん、目が怖いですよ」

室長は私の目から逸らした。そして室長は大きく息を吸いまた私を見た。

「味方ですよ。専務はこの会社を継ぐつもりはなかったんです。それが自分で決めて入社したんですから。その姿を見てきましたからね」
< 23 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop