最低なのに恋をした

私の気持ちは

専務の家に気づけば、私用のお椀と箸が増えた。使わないお茶碗も。

専務が買ってきてくれた物。
気になることと言えば、専務用のお椀と箸も新調されている。

それらは明らかに夫婦茶碗。

「セットで売ってたから」
そう笑顔で教えてくれた。

複雑な気持ちになる。どう反応すればいいのかわからず「ありがとうございます」とだけ伝えておいた。

反応には困ったけれど、嫌ではないから困ってしまう。
専務の私に対する優しさに対して「嬉しい」と言う言葉が頭をよぎったのは一度ではない。

専務に同行し、その仕事ぶりを間近でみることで熱意や真剣さが伝わってくる。

そしてますます、サポートしたくなるのだ。

「専務、顔だけだよね」
という刃物事件以来の女性社員からの陰口や。
「いいよな、御曹司は」
という男性社員のやっかみが耳に入ってくると反論したくて仕方がない。

「顔だけ」ではありません。
行動もモテテク満載です。でも現在は、女性の影はありません。

「御曹司」ではありますが、そこに胡座はかいてません。休養をとる時間がないほど働いていますよ。

この専務を庇いたくなる気持ちは、秘書だからなのか、それとも別の感情なのか悩み始めていた。

「安西さん、ご飯食べに行こう」

仕事が終わり、専務に挨拶をしに行った時そう声をかけられた。

今日の専務は会食などの予定はない。
明日は休み、飲みたい気分なのだろうか。 

「お酒ですか?自宅で休まれた方がいいと思いますよ」

最近の過密スケジュールを思い浮かべついお小言のように言ってしまう。

「安西さんとご飯が食べたいだけ」

「朝、食べてるじゃないですか」

「夜も食べたいんだけど」

優しく目を細めてこちらを見る専務に冷静さを失いかける。
時々、勘違いしてしまうほどの色気を出してくるのだ。この目を細めてこちらをみる、この表情。
甘えてるのか、誘ってるのか、気があるのか。

この表情に私は弱いと自分でもわかる。
顔が熱くなってしまうのだ。

それをわかってやっているのかもしれないと、最近思う。

でも、私は秘書だ。と冷静さを手放さないようにギュッと力を入れるのだ。

「それでは…」

私は「兄のお店での飲食代を払う」という以前した約束が頭に浮かんだ。

別に私も専務とご飯を食べるのは嫌ではない。

一緒に食べる朝食の時間は穏やかで心地よい。

「兄のお店でいいですか?私も最近行けてなかったので」

「うん。お兄さんのお店、行きたいと思ってたよ」

お世辞でも嬉しい事を言ってくれる。
そういう心遣いをサラッと口にできるのも女性が寄ってくる要因なのだろう。
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