なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
「あのう、玲於奈さんが生まれた時からご存知なんですよね?」

「ええ。とても可愛い赤ちゃんでしたよ。オムツも替えさせていただきましたからね」

「そうなんですか。いつ頃まで今枝家にいらしたんですか?」

「坊ちゃまが大学院に入学してお仕事も始められてからお暇させて頂きました」

「どんな学生時代を送られていたのかもご存知なんですね?」

「ええ。それはもう。幼稚園、小学生の頃は女の子みたいに可愛らしかったですよ」

「中学高校の頃は?」

「あの頃はバスケットボール一筋でしたね。中学生の頃に急に背が高くなって」

「そうなんですか。じゃあ女の子にもモテましたよね?」

「そうですね。お宅に訪ねて来られるお嬢さんもいらっしゃいましたけど……」

「はい……」

「坊ちゃまはお会いにはなられませんでしたね」

「会わなかった?」

「今枝の名前でモテても、それはニセモノだって仰っしゃってました」

「そうなんですか」

「名前や肩書きだけで評価されたくないといつも仰っしゃってましたからね」

「はい」

「僕がこの人だと感じたら、その気持ちを尊重すると思う。そういう人が現れるまで誰とも付き合う事もないと」

「そうですか……」

「それが茉帆さまだったんですね」

「えっ? それは……」

「このマンションに一緒に住んでいるのが何よりの証拠ですよ。ご自分の近くに女性を置くのは初めてだと思いますからね」


 三日間、田沢さんに来て頂いて家事もお願い出来たし、ゆっくり休ませて貰った。

 玲於奈さんの子供の頃の話や学生時代の話もたくさん聴かせて貰って、田沢さんと楽しくお喋り出来たのも、とても有意義な時間だった。


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