なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む

仕事

 三日間しっかり休ませて貰って久々に玲於奈さんと出社した。

「茉帆、本当に大丈夫なのか?」

「もう、玲於奈さんは心配し過ぎです」

「心配するのは当たり前だろ?」

「ありがとうございます。でも本当に大丈夫ですから」

「茉帆、会社は辞めてマンションでのんびりするか?」

「はっ? 辞める?」

「マンションでゆっくりして家事を少ししてくれればそれで充分だから。田沢さんにも毎日来て貰おうか?」

「それは過保護過ぎます。田沢さんにもご迷惑です」

「いや。茉帆がマンションに来てから考えていた事だ」

「田沢さんに毎日来て頂いたら私のする事が無くなります」

「茉帆には趣味でも習い事でも何でも自由にしてくれたら良いよ」

「それって、セレブな奥さまと同じですよね?」

「いけないのか? 僕は茉帆が元気で無理しないで楽しく過ごしてくれたら満足なんだけど?」

「そんなに私を甘やかさないでください」

「僕が茉帆を甘やかして何が悪いんだ?」


 専務室でそんな話をしていたら……。
 
「なになに? 結婚する前から夫婦喧嘩か?」
伊織さんが部屋に入って来てニヤニヤしながらそう言った。

「はっ?」
「はあ?」

「もう仲が良いのは良く分かりましたよ」

「伊織さん!」
「伊織!」

「きょうは午後から外回りですから、午前中に気の済むまでお話し合いをしてください。僕は秘書室に居ますので。ではごゆっくり……」


「あの……。でしたら今週末までお休みを頂いても良いでしょうか?」

「どうした? 急に」

「少し考えたい事があります……」

「婚約破棄とかは無しだぞ?」

「そうではなくて……」

「正式に発表してはいないが両家とも承諾済みだ」

「はい。それは分かっています」

「それなら良い。運転手に連絡を……」

「大丈夫です。タクシーで帰りますから」

「ちゃんと真っ直ぐマンションに帰れよ」

「はい。ではお先に失礼します」

「ああ、気を付けてな」


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