なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
 週末まで考えて考えて……。

 やってみなければ分からない。
 私にやれるだけの事はやってみよう。

 それで駄目なら諦められる。

 もう七月末だから時間はないのかもしれない。

 他の受験生は必死に勉強をしているのだろう。

 それでもやってみたいと心が決まった。



 金曜日……。

「ただいま」
玲於奈さんが帰って来た。

「おかえりなさい」

 食事を済ませてコーヒーを入れる。
 玲於奈さんの前にコーヌコピアのカップを置く。
 コーヒーを一口飲むのを待って

「お話があります」

「うん。なに?」

「私、大学受験を考えてます」

「そうか」

「へっ? あの……」

「茉帆が何を悩んでいるのか僕なりに考えていたんだ」

「玲於奈さん……」

「茉帆が一番気になるのは、やっぱり実家である和泉製作所の事だろうと思い当たった」

「はい……」

「相当悩んだんだろう?」

「はい……」

「で、その大学はどこにあるんだ?」

「それが……京都に……」

「京都か? 遠いな。でも茉帆が悩んで決めたんだろう?」

「そうです」

「それなら僕は応援するよ」

「玲於奈さん……良いんですか?」

「その受験は現役高校生と一緒に受けるのか?」

「いいえ。理工学部の医用工学科に行きたいんです。その大学だけ他の大学には無い社会人枠があって志望の学部に入れるんです。小論文と面接だけの受験で募集人数も少なくてかなり狭き門ですけど……」

「でも受けると決めたんだろう?」

「はい」

「じゃあ僕は見守るだけだな」

「ありがとうございます」
 
 玲於奈さんの理解のある言葉に涙が零れそうだ。


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