なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む

今枝 玲於奈

 ラファエルを出てエレベーターまで歩く。

 二人で乗って扉が閉まる。

「どういう事ですか?」

「何が?」

「私がお見合い相手だって知ってたんですか?」

「写真を貰っていたからね」

「いつから?」

「最初に病院で秋川と一緒に会った時には、もう知ってたかな?」

「それであんなお節介を?」

「お節介じゃないだろ? 秋川に付き纏われて困ってたのは確かだろ?」

「それは……。助かりましたけど……」

「まぁ、あそこまで秋川をやり込めた女の子は初めてかな?」

「で、あんな遊び人、まだ営業させておくんですか?」

「いや。秋川は内勤に移動した」

「移動させたの間違いでは?」

「まぁ、そうとも言うかな。会社の名前に傷が付く前に庶務課で大人しく仕事して貰う事にしたよ」

「賢明なご判断ですね」

「何だか秘書口調だな」

「あぁ。高校生の時に秘書検定準一級を取りましたから」

「へぇ。大学生でも難しいって言われてるのに?」

「高校を卒業してから自由にさせて貰う条件でしたから」

「僕の秘書になって貰おうかな?」

「ご冗談を……」

「いや。かなり本気だ」

「私の仕事、知ってますよね?」

「その仕事だけど、どうしても続ける気か?」

「どういう意味ですか?」

「病院で薬を処方して貰ってるだろう?」

「それは……」

「名古屋に住んでるお母さんの薬の訳がないだろう?」

「…………」

「心臓が悪いのか?」

「どうしてそれを……」

「担当医師に聴いた」

「はぁ? 病院の医師には守秘義務はないんですか?」

「僕の婚約者だからと言って教えて貰った」

「誰が婚約者なんですか? 勝手な事言わないでください」

「君の体が心配なんだよ。立ち仕事は辞めた方が良いと言われたんだろう?」

「…………」

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