なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む

卒業式

 卒業式には母の縫ってくれた淡い菫色の地に淡墨桜柄の訪問着を着る。
 
 若い子達は袴にするらしいけれど私は少し大人でもあるし、美容短大の卒業式に袴は着ていたので三十路の私は落ち着いた訪問着にした。

 お付添いの保護者と間違えられるかもと少々の不安もあるけれど……。

 母は前日からマンションに泊まりに来てくれて着付けをしてくれる。どんな帯結びにしようか楽しみなようだ。

 髪は卒業前にショートボブにしたので自分でセットしてメイクも久しぶりにフルメイク。そこは元美容師だから美容室に行かなくても大丈夫。

 祥子ちゃんは朝早くから美容室に行ってヘアメイクと着付けをして貰うそうだ。
 もちろん袴を着ると言っていた。音大の卒業式にも袴を着たけれど、もう袴を身に着ける事もないだろうからと。

 三歳の違いは大きいのかなと考える。

 卒業式に袴を身に着けるのが当たり前のようになっているけれど、二十年位前から始まった比較的新しい習慣なんだと言う。

 人気少女マンガのヒロインが着ていた袴を真似て流行り出したようだ。 

 母に着付けをして貰って身が引き締まる思いがしている。

「やっぱり良く似合うわね」
母は優しく微笑んで言ってくれた。

「ありがとう」
母の着付けは帯を結んでも苦しくない。流石だと思う。

 袋帯は二重太鼓に結んで貰った。
 成人式じゃないんだから派手な帯結びは周りから浮いてしまうだろう。

< 158 / 188 >

この作品をシェア

pagetop