なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
 明太子のパスタとサラダで遅めのブランチ?

「美味しい」
久しぶりの味に泣きそうだ……。

「ここに来てから自炊してたからな。尤も茉帆のお母さんの食事も何度もご馳走になったけどな」

 食洗機にサッと洗った食器を入れる。
 キッチンの食器棚は作り付けの新しい物だけれど、食器はどれも懐かしくて……。

「コーヒー入れるよ」

「あっ、私が……」

「いいよ。茉帆はきょうはゆっくり休んでて」

 両肩に温かな手を乗せてソファーに座らされた。


 直ぐにコーヒーの香りが……。
 初めて玲於奈さんのマンションに住み始めた頃を思い出す。

「はい。茉帆の」
そこにはプシュケのカップ。玲於奈さんもコーヌコピア。じっと見ていると……。

「どうした?」

「カップも食器も懐かしくて……」

「ああ。家具や家電は全部、実家暮らしだった伊織に押し付けて来たけど食器は持って来た」

「はい。嬉しい」

「茉帆との思い出がいっぱいだからな」
玲於奈さんは微笑んで言う。

「伊織さんは元気ですか?」

「ああ。流石、伊織だよ。学者専務よりバリバリ仕事をしてるようだ」

「それは玲於奈さんと一緒に仕事をして来たからですよ」

「そうだ。茉帆。今週末に東京に挨拶に行くか?」

「そうですよね。卒業も入籍もきちんと報告しないといけませんよね」

「まあ、両方共、知っているけどな」

「社長やお母さま、副社長、紗弓さんにも、伊織さんにもお会いしたいです」

「そうだな」

「もう、お会いする事もないって思ってましたから……」

「僕のせいだな。ごめんな」

「いえ。冷静になって考えたら、もし玲於奈さんの事故を知っていたら、本当に大学も辞めていたと思います」

「茉帆」

「だから私にとって辛い四年間でしたけど、良かったと思う事にしました」

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