なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
東京へ

挨拶に

 翌週末に玲於奈さんと二人で午前中の新幹線に乗った。
 今枝家に挨拶に伺うために。

 新幹線はそろそろ品川駅に到着する。

「どうした?」

「何か緊張してきました……」

「大丈夫。大歓迎されるよ」
笑顔の玲於奈さんの言葉に安心する。

「お茶でも飲んでから行こうか?」

「そうですね」
駅を出て街を少し歩くと素敵なカフェが見えて来た。

「ここにしよう」
玲於奈さんに促されてドアを開けて入る彼に続いて入る。
 明るくて上品な女性好みのカフェ。

 窓際の席に座って居た人の顔を見て
「えっ? 伊織さん……?」

「茉帆ちゃん。久しぶりだね」
そこには眼鏡の奥から優しく微笑む伊織さん。

「伊織。待たせたか?」
向かい合って玲於奈さんの隣に座る。

「いや。僕もさっき来た所だよ」

「えっ? 玲於奈さん、知ってたんですか?」

「茉帆が伊織に会いたいって言うから」

「すみません。せっかくのお休みなのに」

「何言ってるの。僕も茉帆ちゃんに会いたかったよ」

「ご無沙汰してました。お元気そうですね」

「うーん。玲於奈に無理やり常務を押し付けられて大変なんだよ」
伊織さんは苦笑いしていた。

「社長から聴いてるよ。常務じゃなくて専務にすれば良かったって」
玲於奈さんは笑っていた。

「とんでもない。玲於奈の仕事を思い出して真似事をしてるだけだよ」

「それでも凄いですよ。坂元常務」

「止めてよ。茉帆ちゃんまで」
伊織さんは照れ笑いだ。

 立派な常務として仕事をしている様子が目に浮かぶようだ。
 流石、玲於奈さんに見込まれただけの事はあると私も納得した。

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