なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
今枝製薬株式会社

初出社

 ついに私の初出勤の日が来た。

 美容師の時とは全然違う出勤支度。

 秘書として玲於奈さんと仕事をする。
 大丈夫かな? 私……。

 あの時に決めた白いスーツに身を包み、にわか秘書の出来上がり。
 メイクも纏めた髪も、これは得意分野だからね。

 玲於奈さんと簡単な朝食も済ませて、出掛ける。
  
「僕の車で一緒に行くよ」

「えっ? でも……」

「僕の専属秘書なんだから当然だろう?」

 マンションを出て、地下の駐車場に下りる。

 何度も乗せて貰ったネイビーのドイツ車。
 でも、きょうは今迄以上の緊張感で心臓が飛び出しそうなんですけど……。

 助手席に乗りシートベルトを着用する。

 玲於奈さんの運転で車は滑るように走り出す。

「緊張してるのか?」

「私だって緊張くらいしますけど……」

「秋川をやり込めた時みたいな調子でいけば大丈夫だよ」

「あれは……。本気でムカついたから……」

「だろうな。でも見てて気持ち良かったよ。あの遊び人も、かなりダメージ受けてたみたいだしな」

「そうですか? 庶務課でも同じ事をしてるんじゃないですか?」

「残念ながら庶務課には女性は居ない」

「でも会社には綺麗な女性がたくさん居ますよね?」

「懲りずに受付の女の子でも口説いてるんじゃないか? まあ誰も靡かないとは思うが」

「ああいう遊び人を制裁する社則とかないんですか?」

「じゃあ作るか?」

「バカにしてます?」

「いや。してないよ。茉帆の最初の仕事はそれにするか?」

「やっぱりバカにしてる……」


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