なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む

専務取締役 今枝 玲於奈

 車は会社の地下駐車場に着いた。

 エレベーターに乗る。
 一階で止まるけれども、玲於奈さんがカードキーをかざすと、そのまま上の階へ上っていく。

「普通の社員や来客は一階で降りて貰う。役員はそのまま重役階まで行けるから」

「あのう。玲於奈さんの役職は?」

「専務取締役だけど」

「専務ですか? お若いのに?」

「言ってなかったっけ?」

「はい。聴いていませんでしたけど」

「それは済まない。茉帆は専務秘書だから」

「あぁ。はい」

 重役階に着いたみたいだ。

「降りるよ」

「はい」
 廊下の床が絨毯張りで、フカフカ。

 重厚なドアを開けると

「おはようございます。専務」
眼鏡を掛けて、如何にも優秀そうな男性秘書。

「あぁ。おはよう」

「おはようございます」
私も挨拶する。

「専務秘書の坂元伊織です。きょうから宜しくお願い致します」

「和泉茉帆です。こちらこそ宜しくお願い致します」

「ふーん。そうか……」

「何だ? 伊織」

「いや。専務もようやく年貢を納める時が来たのかと……」

「まあ、そういう事だ」

「へえ。で? 和泉さんの扱いは?」

「秘書課には属さない。僕の専属秘書だ」

「それはそれは……」

「何だ?」

「いや。でも同じフロアに居るのに、きちんと紹介はしておかないと」

「まあ、そうだな」

「和泉さん。秘書課の皆んなに紹介するから、後で迎えに来るよ」

「あ、はい。分かりました」

「じゃあ。後で」


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