なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
「じゃあ、もう戻るから」

「きょうは重役会議だけでしょう?」

「ああ。茉帆に早く慣れて貰いたいから」

「まあ、そうね」

「茉帆、行くよ」

「はい。失礼致します」
社長室を後にした。


「後は、常務が居るけど、またその内会わせるよ」

「常務はどんな方なんですか?」

「父さんの妹の息子。僕とは従兄弟になる」

「えっと、お歳は?」

「兄貴と同じ歳だから、三十二歳かな?」

「そうなんですか」

「そうだ。この廊下の端の秘書課の手前に喫煙室と飲み物の自販機を置いた休憩所があるけど……」

「はい。分かりました。さっき少し見ましたけど」

「でも、あまり行くなよ」

「何故ですか?」

「珍獣たちとお近付きになって欲しくない」

「ああ。はい。分かりました。なるべく行かないようにします」

「なるべく?」

「たまには飲み物も欲しいですから」

「なら専務室にある冷蔵庫に朝コンビニで買って来て入れて置けば良い」

「ええ? でも私も社員になったんですから他の社員の方とお話くらいはしたいです」

「はあ。極たまにだぞ」

「はい。分かりました」
フフッっと笑う。

 これって独占欲? なのかしら?

「何だ?」

「いえ。何も」

「そうだ。トイレはこっちを使えよ」

「あ、はい」

「休憩所の隣にもあるが、あそこは女狐の溜まり場だからな。行くなよ」

「はい。分かりました」

 専務室に戻って来た。

「僕はきょうの重役会議の資料に目を通すから。茉帆は薬の勉強だ」

「はい」
デスクに座って分厚いカタログを広げて勉強。

 見ていると私が服用している薬も出て来て意外と面白い。

 薬の名前が覚え辛いけれど、他の物に語呂合わせして覚えられなくもないかなと思う。

「何か熱心に勉強してるな」

「あぁ。はい。意外と面白いと言うか。興味深いです」

「へえ。それは良い傾向だな」


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