なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む

社長室

 専務室を出て一番奥の重厚なひときわ大きな扉をノックする玲於奈さん。

「はい」

 扉を開けて入って行く玲於奈さんに続く。

「連れて来たよ」
何だか素っ気ない言い方……。

「失礼致します」
皆さんお揃いで緊張する……。

「茉帆ちゃん、お見合い以来ね」
とお母さまが笑顔で。

「はい。その節はありがとうございました」

「やっぱり並んで居ると絵になるな」
とお父さま。

「いえ。そんな……」

「茉帆ちゃん。元気になって良かったわ」
紗弓さんが。

「はい。先日は大変お世話になりありがとうございました」

「そんな堅苦しい挨拶は良いのよ」
笑顔の紗弓さんはとてもお綺麗だなと改めて思った。

「僕だけが初対面なんだ。玲於奈の兄の明勇夢(あゆむ)です。宜しくね」

「はい。和泉茉帆です。宜しくお願い致します」

「玲於奈が一目惚れするだけの事はあるな。でも私設秘書で良いのか?」

「ああ。珍獣部屋には行かせたくない」

「確かに珍獣部屋だな」
お兄さんは声を出して笑っていた。

「でも社会保険とか厚生年金とかあるでしょ? 秘書課じゃなくて専務秘書と言う事で手続きしたらどう? 秘書課には所属しなければ良いんだから」

「それで良いなら頼むよ」

「分かったわ。手続きさせるから。茉帆ちゃん体はもう大丈夫?」

「はい。お陰さまで。ご心配お掛けして申し訳ありません」

「紗弓さんのお兄さまが主治医なら安心だから」

「はい」

「気難しい玲於奈と一緒に居ると神経が休まらないわよね? 何なら家に来る?」

「えっ? ああ、いえ。玲於奈さんにはとても良くして頂いています」

「そう?」

「母さんが邪魔したら駄目だろう?」
とお父さま。
「結婚の為の予行演習なんだろ?」

「ああ。上手くいってるから安心してよ」

 上手くいってるのかな? 些か疑問も残るけど……。


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