なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む

割烹 飛鳥

 割烹飛鳥は自然な竹林のように庭を造り上げた都会の真ん中とは思えない風情のある落ち着いた店だった。

「素敵なお店ですね」

「気に入ってくれた?」

「はい。とても」

「料理はもっと気に入ると思うよ」

「楽しみです」

 竹林の小路を歩いて店に入る。

「こんばんは」

「ようこそ、おいでくださいました」

「突然、申し訳なかったね」

「とんでもない事でございます。どうぞこちらへ」

 案内された部屋は上品な和室だった。
 小さな床の間に美しい生け花が飾られ、新しい畳の香りが落ち着ける。

 いつものを頼むよと玲於奈さんが言われたお料理はコース料理になっていた。

「お酒はいいんですか?」

「今夜は料理を楽しもう。ここの料理はその価値がある」

「はい」

「酒が入ると伊織が何を言い出すか分からないからな」
玲於奈さんは笑っていた。

「茉帆ちゃんに高校大学時代の話を聴きたいと言われてたんだよな」

「何を話すつもりだ?」

「そうだな。バスケの話とか……」

「伊織さんもバスケをされてたんですか?」

「高校の時からね。中学高校とバスケ三昧だった玲於奈とはレベルが違うから」

「伊織は無駄に背が高いから、無理やりバスケさせたんだよ」

「その割には上手くなっただろ?」

「それは僕に見る目があっただけの話だよ」

「本当に息が合ってますよね」
思わず笑ってしまう。


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