なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む

専務室で一人

 翌週のある日……。

 今枝専務と坂元秘書は、朝から得意先に何軒か行かなくてはならなくて、茉帆は一人でお留守番。

 薬のカタログを覚えながら勉強。

 お昼も社食には行くなと専務から言われて、朝コンビニでサンドイッチと飲み物も買って冷蔵庫に入れてある。

 十二時になって、一人でサンドイッチの昼食を摂る。

 午後からも薬の勉強。

 流石に話し相手もいない一人の専務室は気分転換も出来ない。

 窓から見える景色もビルばかりで特別眺める物でもないし……。

 それでも、これが私に与えられた仕事なのだからとカタログとにらめっこをしていたけれど……。

 この会社に就職したからには商品の事も知らなければ話にもならない。

 営業に出されるような事はないと思うけれど、知らないでは済まされないのは理解している。

 ただ黙々と薬のカタログを見て覚えて効能を頭に入れる。

 この薬たちが色々な病気で苦しむ人の希望であり、生きる糧となっている事を思う。
 そして心から感謝しているのだと……。

 私も、その一人なのだと思うとカタログとのにらめっこも楽しい時間に変わる。

 凄い仕事をしている会社なのだと改めて感じて感謝する気持ちも湧いて来る。

 それでも、やっぱり気分転換は必要よね。

 それなら玲於奈さんが居ない今がチャンスだと思い財布を片手に専務室を出る。


< 59 / 188 >

この作品をシェア

pagetop