なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む

二人だけで食事に

 伊織さんの携帯に掛けて
「きょうはもう帰るから、後は頼むよ」

「分かりました。お疲れさまでした」



「茉帆。行くぞ」

「はい」
専務室にバッグを取りに行く。

 地下駐車場まで下りて玲於奈さんの車に乗る。

「きょうは何が良いかな?」

「そうですね。先週は和食を頂きましたから……」

「じゃあ、イタリアンにするか?」

「はい。好きですよ」

 玲於奈さんの車は滑るように走る。
 三十分も走っただろうか? 車を停める。
 
「この店は本当に美味いよ」

「玲於奈さんが言うなら間違いはないですよね」

 ちょっと大人なイタリアンみたい。
 落ち着いた紳士淑女が食事を楽しんでいる。
「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
 席に案内される。

「今夜のお勧めのコースは何ですか?」
と玲於奈さん。

「アンティパストはイチジクと生ハムのサラダ、プリモピアットはシーフードトマトクリームパスタ、セコンドピアットはラム肉のバルサミコソース、ドルチェはピスタチオとブラッドオレンジのジェラートになっております」

「茉帆も良い?」

「はい」

「じゃあ、それで」

「かしこまりました。お飲み物はいかが致しましょうか?」

「車なので、ペリエで。茉帆はどうする?」
「はい。私もペリエで」

「承知致しました」


「そう言えば、二人だけで外食するのは初めてかな?」

「えっと。そうでしたっけ?」

「お見合いのフレンチと先週の和食は二人だけじゃないだろ?」

「家で何度も食事はしてるし社食とか……。そんな気がしませんね」

「そうだな。普通に夫婦みたいだな」

「はっ? えっ? 夫婦って……」

「そんなに焦らなくても良いと思うけど?」
こういう時の玲於奈さんは少し意地悪な顔をする……。

「でも……。まだ何も……。決まった訳じゃ、ありませんし……」

「それなら、次の日曜日にでも式を挙げるか?」

「はぁ? 冗談ですよね?」

「僕は全く構わないけど」

 こんな時、どういう顔をするのが正解ですか?


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