なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
「茉帆。顔が赤くないか?」

「えっ? そんなことは……」

「人に酔ったかな? 大丈夫か?」

「はい……」
玲於奈さんへの恋心に気付きましたなんて言えない……。

 そこへウェイターさんが……。

「ジュースを貰えるかな?」

「はい」

「茉帆、飲んで」

「ありがとうございます」
冷たいオレンジジュースで気持ちをクールダウンさせる。
 うん。もう大丈夫。だと思うけど……。

「部屋で休むか?」

「いえ。大丈夫です」

「辛くなったら遠慮なく言えよ」

「はい」

 それからは何だか恥ずかしくて玲於奈さんの顔がまともに見られない……。

 人を好きになるってこういう事なんだ。
 初めての恋心に戸惑っている自分が可愛く思えて抱きしめてあげたくなった。

「そういえば、常務さんは?」

「ああ。あいつはこういう席は苦手だからな。今頃、研究所で仕事してるんじゃないか?」

「はっ? きょうは土曜日ですよね?」

「常務室に居た事もないからな。茉帆、まだ会った事ないだろう?」

「はい。研究所って」

「薬学部を出て大学院にも行って薬の研究ばかりしてる変わった奴だよ」

「へえ。そうなんですか」

「まあ。あいつのお陰で出来た薬もたくさんあるけどな。だから研究所に居ても誰も何も言わない」

「でも常務なんですよね?」

「まあ、いざとなったら使える奴だから。好きにさせてる」

「常務のお名前は?」

「柊 慎之佑(ひいらぎ しんのすけ)って名前だけは勇ましいんだけどな。典型的な学者タイプかな?」

「お会いするのが楽しみになって来ました」

「茉帆は僕だけ見てれば良いんだよ」

「はい……」


 

 そしてパーティーは終わった。
 両社の益々の発展は間違いないだろう。

 両親は今夜このホテルに泊まる。
 明日の午後の新幹線で帰るそうだ。

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