なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
和泉製作所

新精密医療機器

 あのパーティーから二週間程が経っていた。
 七月もそろそろ終わろうとしている。

 そんな金曜日の夜。
 夕食も済ませてコーヒーを入れていたら……。

「茉帆、携帯が鳴ってるよ」

「あ、はい。誰だろう」
松田くん? どうしたんだろう?
「はい」

「和泉か?」

「うん。どうしたの?」

「和泉は今、東京か?」

「うん。そうだけど」

「近々、名古屋に来る予定はない?」

「特にないけど。何かあったの?」

「実は、和泉製作所の精密医療機器の図面のデータが家の会社のパソコンに入ってるんだよ」

「えっ? 何で?」

「僕も良く分からないけど。それも見たことの無い最新機器の図面のようなんだ」

「それって……」

「考えたくないけど、和泉の会社の誰かが家に持ち込んだ。多分そこにはお金が絡んでると思う」

「誰が?」

「和泉の会社の常務の達川って言ったっけ? 
この前、家に来て親父と話してたのを見たんだ」

「達川常務が?」

「正直、家の会社で作れるようなレベルの機器じゃないと思う。考えたくないけど親父がこの業界ナンバー2の会社に金で売り付ける可能性がある」

「そんな……」

「茉帆、和泉製作所の危機だと思う」

「分かった。ありがとう。松田くん。感謝するわ」

「当たり前だろ。僕は和泉の親父さんを尊敬してるから」

「その図面のデータは?」

「家の父親パソコン苦手でさ。シャットダウンもしないで、そのままだったから直ぐに分かった。パスワード設定して誰にも見られないようにしたから」

「家の会社のデータなのね?」

「ああ。間違いない」

「うん。とにかくありがとう。感謝する」

「ああ。最悪の事態にならないように僕たちで何とかしよう」

「うん。とにかく父に話して、また電話するから」

「ああ。待ってるよ。急いだ方が良い」


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