なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む
「私は子供の頃から、達川常務が酒浸りだった事とあなたの秘書が大嫌いでした」

「…………」

「会社の経費で愛人を雇うやり方に我慢が出来ません」

「そ、それは……」

「父や仲田専務に何度言われても、あなたは変わらなかった」

「…………」

「設計図を書くあなたの能力は素晴らしいと思います。ですが、あなたの私生活は最低です」

「…………」

「奥さまを裏切り泣かせて、息子さんだってもう子供じゃないんですよ」

「小さなお嬢ちゃんだったのに……。大した口をきくようになったんだな」

「息子さん、とても優秀なんですってね? 恥ずかしくないんですか?」

「…………」

「あなたを訴える事も出来るんですよ。父も仲田専務も、あなたを友人として信頼していた筈です。裏切り行為は許せません」

「辞めればいいのか? 会社を辞めれば……」

「和泉製作所の設計図のデータは他には持って行ってないですか?」

「ああ。松田製作所だけだ」

「その言葉を信じても良いんですね?」

「本当だ」

「達川。今まで頑張ってくれた事に対して退職金を出そう。息子さんの学費は面倒見るよ。それで立ち直ってくれ」

「済まない。申し訳無い……」

「心を入れ替えて真面目になるんだな」

「仲田……。もう二度と二人を裏切るような事はしない。済まなかった」
達川常務は深く頭を下げていた。

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