仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「チッ、その話は散々聞いてるんですよ、いい加減耳タコなんでやめてくれます?」
「なっ!感動する場面なのにダークなユーリスが出てきた!」
ギョッとした皇帝にはユーリスの体から黒い炎が燃え上がる光景が見えた、気がした。
「結局陛下は私を振り回して楽しんでいるだけでしょう!もうやめてください!」
「いや、だから私は振り回してはいない。良かれと思ってだな」
「私のこの顔を正面から見据えられる女性など現れない。運命の相手などいやしない。現実を見てください!」
ぐっとこぶしを握るユーリスに皇帝は静かに語りかけた。
「ユーリス、本当にお前はそう思っているのか?違うだろ?お前は本心では最愛の人を求めているはずだ」
思い浮かぶのはひと目も憚らず愛し愛されるユーリスの両親の姿。本来溺愛体質なのは皇帝だけでなくユーリスの父もそうだった。
ユーリスはその遺伝を確かに受け継いで本当は愛したくてたまらないはず。
その相手は誰なのかそれももう見つけているはずなのだが、意固地なユーリスは素直に認めない。
「そんなわけ……」
「ほら、できたぞ。あとは、この仮面をかぶって……よし、ダンディな男の出来上がりだ!」
皇帝は反論を聞かずにユーリスを立たせ鏡の前に連れていく。
鏡の中では艶やかな黒髪をオールバックにしたバラの仮面が映えた男性が映っている。
皇帝の見立てた派手目の夜会服が妙にマッチしていつものユーリスより年上に見えいい男っぷりだ。
「仮面はな、見せたくないものを隠すだけじゃない。いつもの自分を隠しているからこそ、本心を曝け出せる魔法のアイテムなのだ。ユーリス、心のままに、この舞踏会を楽しめ」
バシッと背中を叩かれ抵抗虚しくユーリスは仮面舞踏会へと放りこまれることになった。
< 111 / 202 >

この作品をシェア

pagetop