仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
フローラが何度も何度も練習した甲斐あってだいぶ綺麗に縫えるようになった刺繍に目をやりユーリスは彼女を見つめた。
「庇ってくれてありがとう。君がなにも言わず信じてくれるから私は平静を保っていられた」
涙をこらえる瞳を愛おし気に見つめて微笑むとユーリスはフローラの額にそっと唇を押し付けた。
「……あ、え、ユーリスさまっ、なに、を」
キス自体が初めてだったフローラはぽかんとした後、あたふたしてあっという間に顔が真っ赤になって俯いた。
そんなフローラを大事そうに抱きしめユーリスはほうっとため息をつく。

周りの目や噂を気にしなかったわけじゃない。
白い仮面と聞けば誰もが自分を思い起こすだろうことも仕方ないと思っている。
しかしユーリスは完全に潔白で惑わされてはいけないと自分を律していた。
それに屋敷の者たちや皇帝、スペンサー侯爵と、傍に自分を信じてくれる者たちがいたから心強かった。
なによりも、醜い姿をまだ見せられないでいるユーリスをなんの疑いもなく信じ慕ってくれるフローラの存在は心強くもうかけがえのないものになっていた。
愛しくてかわいくて大切に腕の中に閉じ込めて守りたいと願ってしまう。

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