仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
ユーリスが目を覚ますとそこは病院のベッドの上だった。
手と顔半分にぐるぐると包帯が巻かれていた。
右手と顔右半分は酷い火傷を負い、一生痕が残るだろうと医者に言われ愕然とする。
母エリンは崩れてきた柱からユーリスを守りその場で亡くなっていた。
そしてそのまま屋敷と共に焼けてしまい骨も残っていないという。
ユーリスを助け出した父ウィルベルムは身体の大部分に大火傷を負い瀕死の状態。
全てを聞いたユーリスが父に会いに行くと、包帯で巻かれた息子の手を弱弱しく握り、妻によく似た瞳を見つめ最後まで息子にすまないと謝罪し息を引き取った。
「お父さま!死んじゃ嫌だ!僕を置いていかないで!」
泣き縋るユーリスを痛々しく見守る大人たちは誰も声が掛けられなかった。

あのときの強盗は父らが応戦したが取り逃がした数人が火を放った混乱に乗じて逃げており今も見つかっていない。
後に、あれはただの強盗ではなく皇帝の信頼を一心に受ける新宰相を嫉むバリモア公爵とその一派が仕向けたという噂だったがいくら調べても証拠が出なかった。
しかし大人の世界の事情などユーリスにはどうでもよかった。
どんなに泣いても嘆いても、いくら襲撃した人間や陰で糸引く黒幕を恨んでも、もう大好きな両親は帰って来ない。
ある日突然幸せな日々を奪われ絶望したユーリスは心を失ったように無表情になった。
包帯で顔半分ぐるぐる巻きのユーリスのその子どもらしくない冷めた目に誰もが戸惑い敬遠するようになる。
そんなユーリスを構わず普段通りに接していたのが当時皇太子のジェイドだった。
そして、あの火事で生き残った執事ベリルの献身的な看病のおかげで少しづつ表情を取り戻してきたユーリス。
一年後、ジェイド皇太子を後ろ盾にヒルト家唯一の跡継ぎであるユーリスが十一歳で爵位を受け継いだ。

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