仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「陛下」
皇帝が彼らの後ろ姿を見送っていると横からユーリスにジト目で睨まれ肩を竦める。
「なぜ私がお前に怒られるのだ。私はかわいいかわいいお前を侮辱されて憤ったというに」
「余計なお世話ですよ。あんな態度など日常茶飯事です、いちいち構ってなんていられません」
「まったくかわいくないなあ」
「今さっきかわいいかわいいと気持ち悪いことを言っていたでしょうに」
「またそうやって、人の揚足を取るようにツッコむんだから」
ちょんちょんと指でつつかれそれを無下に払う。
まったく怖いもの知らずのユーリスである。
この一連はひそかに集まり見守っていた野次馬たちによりすぐさま噂された。
ユーリスを侮辱するものは皇帝陛下の逆鱗に触れる。
増々仮面の貴公子は腫れ物に触るように遠巻きにされた。

しかし一連の話を知ったバリモア公爵が皇帝に意見する。
「陛下に目を掛けていただいてるだけでも光栄だというのになんという態度。陛下、彼を甘やかし過ぎですぞ!陛下に対する態度を改めなければ処罰を!」
「なにを言う、私は何も気にしていない。弟がなにを言おうとかわいいだけだ」
「しかし陛下の実の弟ではありません!臣下ですぞ!このままでは陛下の威厳が落ちましょうぞ!」
「威厳?お前は私に威厳がないと言いたいのか?」
「い、いえ陛下はご立派な方です」
「私の前でこびへつらい陰でこそこそとなにか企んでいる者より、目の前で堂々と悪態つく彼の方がよっぽど信頼できる。そうは思わないか?なあ、バリモア公爵?」
「ぐ……」
バリモア侯爵がヒルト家襲撃の黒幕だという疑いはまだ晴れていない。
ただどうにも証拠がなく、そしてユーリス自身があの事件を蒸し返すことを望んでいなかった。
有力貴族である公爵を無碍にはできないため、それをいいことに言いたい放題の公爵を皇帝はいつも諫めていた。
口を噤む公爵は悔しそうに後ろに控えていたユーリスを睨みすごすごと引き上げていった。
やれやれと肩を竦める皇帝。

直接文句を言わずに皇帝に直談判するとはバリモア公爵もユーリスを薄気味悪がって近付こうとはしないことをユーリスも気づいている。
どうでもいいといいつつも、両親の仇であるかもしれないバリモア侯爵のことは無意識に嫌っているユーリスもつい悪態が出てしまう。
「ったく、言いたいことがあれば直接言えばいいだろう意気地なし。陛下も余計なことをする」
「おーい聞こえてるぞー」
「チッ」
勢いあまって皇帝にも文句を言い舌打ちするとプイっとそっぽを向くユーリス。
皇帝の前で堂々と舌打ちできるのもユーリスしかいない。
皇帝は苦笑いするばかり。

< 25 / 202 >

この作品をシェア

pagetop