仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

明日はとうとう舞踏会の日だという夕暮れ時。
珍しく早く帰ってきたユーリスをベリルが迎えていると裏庭が何やら騒がしいのに気づいた。
「あっ!」
「きゃ~~っ!」
「こらまてっ!」
「やあっダメ!」
侍女マリアの声に交じりフローラの声も聞こえる。何事かとベリルと目を合わせたユーリスは裏庭へと急いだ。
物干し場や菜園、厩や家畜の小屋が立っている裏庭に出たユーリスは思いがけない光景に呆気にとられて立ち尽くした。
「ああっ!な~にやってんだマリア!」
騒ぎ声に駆けつけてきたシェフのグレイが呆れた声を出す。
コケッコー――!と朝でもないのに鶏が鳴いた。
「グレイ!助けて!鶏小屋の戸が壊れちゃって!」
マリアが泣きそうな声で外れかかってる鶏小屋の戸を押えている。
小屋の中では数羽の鶏が外を出たそうに暴れ戸に群がっていた。
なん羽か逃げ出したのだろう、広い庭を謳歌するように鶏が走り回っている。
そしてコケコケと目の前を通り過ぎる鶏をなぜかフローラが追いかけていた。
ユーリスが思わず凝視してると、彼女はとととととっと鶏の後を追い隙をついてひょいっと捕まえてしまった。
やった!とばかりに満面の笑顔で振り返ったフローラは、裏口で立ち尽くすユーリスと目が合った。
「あ、え?ユーリスさま?」
まさかこんな早い時間にユーリスが帰ってきていたとは思いもよらずフローラは固まる。
「な~んだ、大変なことになってんなあ~」
呑気に庭師のセドリックが梯子と道具箱を持ってやってきた。
マリアの代わりに鶏小屋の戸を抑えたグレイが直してくれと頼むと、あいよ~とちょうど持っていた道具箱を開き手際よく修理を始めた。
その間マリアは逃げた鶏を追いかけ回し、あっちへ行ったりそっちへ行ったり。
鶏の世話をよくしているマリアでさえなかなか捕まえられないのに、いとも簡単に捕まえてしまったフローラを我に返ったユーリスは何とも言えない表情で見つめた。
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