仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
ベリル執事とマリアの生暖かい目に見送られ馬車が走り出す。
車内で向かい合わせに座った後はふたりとも目が合わせられず無言で、カタカタと車輪の音と馬の蹄の音がやけに響いた。
(舞踏会よりも今の方が緊張する)
フローラが不安そうに両手を握り合わせているとそれをちらりと見たユーリスが窓の外を見ながら言った。
「舞踏会では、不本意だろうがあなたは私の婚約者として紹介する。会場では自由にしていいが初めてで不安であれば私の傍を離れないように」
「え、はい」
不本意? なぜそう思うのだろうとフローラは首を傾げた。
不本意だなんて全然思っていないのに。むしろ婚約者として傍にいてくれることがとても心強い。
もしかして不本意と思っているのはユーリスの方ではないのだろうか?
それを考えるととても落ち込んだ。
俯いたフローラをユーリスはちらりと見てまた外を見る。
この数日彼女はなんとかコミュニケーションを取ろうと話しかけてくれるが、結局たいした会話も出来ていない。今日なんてフローラの美しさに目が眩みながらも、美しいと言葉もかけてやれず気の利かない自分に嫌気が差す。
外見もさることながらこんな自分の婚約者になるのは本当は嫌だろう。
(今日は婚約者と言っておかないと皇帝がうるさいので仕方なくそういうことにしておくが、もう暫くすれば婚約は解消して解放するから許してほしい)
ユーリスは心の中でそう弁解をして憂いを含んだため息をついた。
フローラはそんなユーリスの横顔をこっそりと見つめていた。

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