仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
皇帝からもフローラの件を聞かれた。
あのとき、ユーリスは浅い眠りの中また悪夢を見ていた。
夢に出てきたのは婚約関係にあった女性たち。
最初は好意的だった女性たちは悪戯にユーリスの仮面を剥ぎ取り曝された素顔を見て驚愕した。ある者は悲鳴を上げ、ある者は恐ろしい気味が悪いと顔を背け、ある者はどれだけ醜いか他人に面白可笑しく話して聞かせる。
そんな光景を金縛りにあったように動けないユーリスはただ見ていた。
あのときの感情は困惑も悲しみも通り越し憤りしかなかった。目が覚め仮面に手を伸ばそうとしている人影を見て頭に血が上り、何も知らないフローラに罵声を浴びせてしまっていた。
すべてを聞いた皇帝には「お前は夢も現実もわからない子供か」と一蹴されてしまった。
始め自分は悪くないと反発していたが、時間が経つにつれ皆の態度が淡々としていればしてるほど自分のしたことが冷静に見えてくる。

そして、日課になりつつあったフローラとの会話の時間がないことがこれほど虚無感を感じるとは思ってもみなかった。
今は、フローラがあの女性たちと同じだとは思っていない。
短い間だったが彼女は見た目で人を判断するような人ではないと十分わかっていたはずだった。
不器用で一生懸命で陽の光のように暖かく皆を明るく照らしてくれていた。
後悔してももう遅いのはわかっているが、もう一度フローラに会えるのであればあのときの非礼を謝罪したい。
だが宮殿のゲストルームに滞在していたアーゲイド男爵は引き払ってしまい、フローラは地元へ帰ったのかどこにいるのかその後の消息は分からないでいた。どこに行ったのか皇帝は知っているはずなのになにも話してくれない。

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