きみと真夜中をぬけて






「……はい?」



ザッザッと砂を蹴りこちらに向かってくる男。

街灯の明かりは乏しいけれど、距離が近ければ近いほど顔がよく見えるのは、朝も夜も変わらない。




その男を、私は知らなかった。



高校生の同級生でも、中学の同級生でも、またそれ以前の知り合いでもなかった。


記憶力は良い方だ。一度会ったことのある人の名前は忘れない。



学校の近くのコンビニで、私が入学してから3ヶ月の間だけレジにいたフリーターのお兄さんの名前まで覚えている。沢井さん。今はあのコンビニをやめてどこでバイトしてるんだろうなぁ……って。


ちがうちがう、今は沢井さんのことなんかどうでも良くて、だ。



「え、あの、だれですか」

「ヒノデ アヤ」

「ヒトデ?」

「ひーのーで!ヒノデ アヤな、俺の名前。漢字見たら綺麗すぎて目玉出るよ あんた」

「えー…と、意味がよく……」

「俺はあんたと話をしに来たんだ。なぁ、深夜徘徊不良少女」






​───夜は、ひとりじゃ寂しいからさ





ヒノデ アヤ。

どういうわけか、彼は、私に会いに来たらしい。



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