きみと真夜中をぬけて







────だからこそ、彼女を学校で見かけた時は本当に驚いた。



高校3年生の、初冬の放課後ことだった。


たまたま通りがかった空き教室で、藤原さんと楽しそうに笑う彼女を見た。

この学校の制服を着ていて、記憶に残る彼女より生き生きとしているようにも思えた。




不登校はやめたのか?

3年生の受験期に復帰って……卒業日数とか単位とか、大丈夫なのか?



そんなことを考えながらも、かつて好きだった人の笑った顔をもう一度見れる日が来るとは思わず、数秒その場に固まった。




藤原さんは、佐藤と菊池と居た時からは想像もできないほど幸せそうな雰囲気を纏っていた。

やっぱり、あの時は泣きそうな顔で佐藤たちに話を合わせていたみたいだ。



どういう経緯で彼女がまた学校に来るようになったかは分からないけれど、藤原さんが一緒にいるということは、何かしら行動をしたということだ。



何も動けないまま日々を過ごした俺とは違う。


好きな人のために、俺は何もできなかった。

遠目からでも、名生蘭の瞳に光が差し込んでいるのが分かった。また彼女を外に連れ出してくれてありがとうと、俺は藤原さんに心から感謝した。


それから、無力な自分を、とても情けなく思った。



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