スプラッシュ
「狩野さん、ガチ寝ちゃったな」
「ほんとだ、疲れてたのかね」

しばらくしてソファで眠りについた狩野を、拓と陸は見下ろした。
狩野は寝息を立て、ぐっすりと眠っている。
いつも眉間にしわを寄せているのが嘘のように、穏やかな表情だ。

「いつもこんな表情だったらいいのに」
拓はぼそりと呟いた。

「お前らも毎日毎日、大変だな。狩野のお守りなんてよ」

遠藤は相変わらず携帯から目を離さず、指を軽やかに動かし、操作を続けていた。
どこかの女と楽しいやり取りでもしているんだろうな、と拓は勝手に想像する。

「大変なんて思ってないっすよ!遠藤さん」
隣の陸が言う。

「そうっすよ、狩野さんについてたくて、一緒にいるんす!」
拓はそれに続いて言う。

遠藤は、思わず、といった風に顔を上げ、あからさまに表情をゆがめた。

「趣味悪いな~、お前ら。狩野なんてただの筋肉ゴリラじゃねえか」

「「筋肉ゴリラ(笑)」」

「硬派な男がかっこいいと思ってんのか知らねえけどよ、紹介する女の子全員断んだよな。俺の面子も少しは考えてくれって、まじで」

「あ~、狩野さんってまじ女に興味ないっすよね」
「狩野さんのファン結構いるみたいっすけどね」

「こんな男の何がいいんだかな。みんな俺にしときゃあいいのに」

遠藤はそう言うと、視線を携帯に戻し、操作を再開した。

遠藤は自他共に認めるモテ男だ。

端正で爽やかな容姿に加え、根っからの女たらしの性格が原因で、女性とのトラブルは常に絶えない。

実際、遠藤を巡って起きた修羅場に、拓も一度だけ遭遇したことがあった。
かわいい顔をした女の子が、怒り狂うとこんなに恐ろしいのか、と身震いしたことを今でも鮮明に覚えている。
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