スプラッシュ
「おう拓と陸、お前らまたすげえ髪色にしたな」

その部屋につくと、既にソファでくつろいでいた遠藤は、双子を見て開口一番にそう言った。

「おはざっす遠藤さん!」
「この髪どうっすか!」

「どうっつーか、それよりお前ら、いい加減髪色分けろよ。見分けつかねえってそれじゃあ」

どっちがどっちだ?と遠藤は二人を見比べ眉間にしわを寄せた。

「いや~そう思ったんすけどね」
「変えたくなる時期も色も毎回被っちゃうんすよ」

「まじかよ、双子ってすげえな」

狩野は部屋につくと、遠藤が座る向かい合うソファに腰をおろした。
拓と陸も狩野の傍につき、すぐ近くの床に座り込む。

「遠藤、他の奴らは?」
狩野が聞く。

「文也さんはいつも通りいねえし、佐久弥たちもまだだよ。古邑と葛城達は学校には来てるみたいだけどな」

携帯をいじりながら、遠藤は答えた。

「どうせ授業でも受けてんじゃねえか?あいつらは変にまじめだからよ」

「そうかよ」

狩野はそう相槌を打つと、大きな欠伸をし、ソファに寝そべった。

「じゃあ、俺はちょっと寝させてもらうぜ」

「あいよ」

文也は今日も来てないのか、と狩野は目を閉じながら思った。

最後にあいつが此処に顔を出したのはいつだったか、とぼんやり記憶を巡る。

たまに隣の部屋にいる気配はするが、此処には顔も出さず、気づけばどこかに出かけている。

文也のために学校の空き教室を占領し巻田組のアジトにしたものの、奴はいつの間にか隣の旧音楽準備室を個室化していた。

文也は自分以外がその部屋に入るのは嫌がるし、携帯を呼び出しても応対はない。

巻田組の中でも付き合いが一番長い狩野にも、文也は未だに心を開いていないようだった。

今はそれでもいい、と狩野は思った。

あいつを無理やりこの座に座らせた時から、奴のこのくらいの態度は予想していた。

ただ、いつか…。

狩野は今にも眠りそうな、微睡む頭で思う。

いつか、文也が自分の居場所を見つけられればいい。

それが俺らではなくても、文也が心の底から安心できるような居場所を、いつか見つけられれば…。
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